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姿を見なくても、声だけでそれが松陰先生なのは分かる。
それ程までに俺は松下村塾に通い、松陰先生の声を聞いてきたのだから。
「何?」
若干棘が混じる俺の声。
あんなことを考えていた後だからか、自然と剣呑になってるみたいだ。
「栄太郎が皆の輪に混じってきませんからね。寂しいかな? と思ってきちゃいました」
松陰先生の声は、俺の剣呑さをまるで気にしていないいつも通りの柔らさを含んだものだった。
「寂しくないから。だから松陰先生は向こうに行きなよ」
「嫌です~。賑やかな場で一人いるのは寂しいものですからね」
「俺は寂しくない」
「強がり結構! ですが、強がってばかりじゃ破裂しますよ? 心が」
「へぇ」
一人の方が楽だし寂しくないというのに、強がりと言われて苛立った。
心が破裂するなんて言うのが馬鹿馬鹿しく思えて、返事は素っ気なくなる。
片膝を立て頬杖をしながら松陰先生に背を向け、木々の方に目をやるけど……松陰先生は動く気配が少しもないようだね。
「栄太郎は私が嫌いですか?」
嫌い?
嫌いなら毎日あんなボロ小屋に通ったりしないというのに……。
でも今は
「嫌い」
だから、素直に答えた。
それでいつも穏やかな松陰先生は怯むかと思ったけど、聞こえてきたのは……そうですか、なんて言いながら笑う声。
この人は一体何しに来たのか。
「でも私は栄太郎が好きです! ……う~ん。違いますね。
愛しちゃってます!!」
…………は?
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