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「不思議なものでね、相手を嫌うと言葉一つ眼差し一つには、本人が意識しなくても冷たい力がこもるんです。
いい例が、世間から見た私、ですかね?」
松陰先生は脱藩したり黒船に乗り込もうとしたり、沢山の罪を犯した犯罪者……だと、俺の周りにいる大人は言う。
松陰先生に向ける目は、確かに侮蔑や嫌悪を秘め、言葉も同じ。
……ああ、松陰先生が言う冷たい力とはそのことか。
大人は松陰先生を嫌っているから、そのようになっているんだ。
「気持ち一つで冷たくも温かくもなるって、不思議ですよね。ですが、人を傷つける力は良い結果を残すなんて滅多に無い」
松陰先生の方を見れば、眉を垂れて切なげで。
それは何かを思い出しているのか……それとも、松陰先生にしか分からない何かを見ているのか。
「私はね、沢山の人に愛を持って接したい。特に吸収の早い子供達には。更に特にを追加するには」
切なげな表情は一変して、いつもの柔和な顔になって俺を包み込む。
肩に腕を回されて、松陰先生に引き寄せられたんだ。
「溢れんばかりの優しさを強がりで隠す栄太郎には、特に愛を持って接したい。強がりを愛で溶かす為にね」
「……俺は、優しくないよ」
「あれぇ? 無自覚ですかぁ? いいですか栄太郎。人は何かを秘めている人に、自然と引き寄せられるのですよ。
その証拠に、ほら」
寄せられた俺の肩を掴むと、川の反対側に向けられて……。
そこにいたのは……。
「栄太郎!! どっちがでっけェ魚捕まえるか勝負しようぜ!!」
「そんな所で松陰先生を独り占めしないでこっちに来て下さい」
「……裸の付き合いだ」
晋作と義助と杉蔵……皆が、俺を呼んでいた。
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