四天王の思い出

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あの三人と俺を合わせて四天王だって呼ばれているけど、だからといって仲良しこよしで連んでいるわけじゃない。 寄ってくる度に適当にあしらい、俺から寄るのは滅多に無いというのに……。 どうして奴等は凝りもせずに寄ってくるわけ? その答えが見えなくて、松陰先生を見れば、人差し指で胸の中央を指された。 「好きという気持ちに隔たりは無いのです。栄太郎が皆を避けようとも、皆は栄太郎が好きだから、そんなのは意にも介さない。 私は知ってますよ? 栄太郎が皆を好きなのは。毎日塾に来るのは、学ぶ以外でも皆に会う為だというのも。 栄太郎は分かりにくい素直さですが、私や皆はちゃ~んと、分かってますからね」 松陰先生……。 本当にこの人には……かなわないって思い知らされる。 俺が歳をとろうとも成長しようとも、この人には到底かなわないのだろうね。 他の人と違ったものの見方をし、違った考え方をし、相手一人一人を見ている観察力。 到底……かなわない。 自然と苦笑が浮かんだけど、それを隠す為に松陰先生から顔を背けた。 でもそんなのも松陰先生はお見通しみたいで、大きな手で頭を撫で回される。 「やめなよ」 口ではそう言いながらも、体で拒まないのは……思いは素直だからなのか。 大勢と連むのは嫌いだけど、大勢の中に松陰先生がいれば……別にいいとさえ、思える。 松陰先生がここにいるから俺がいて。 松陰先生がここにいるから皆もいて。 松陰先生は本当に……別格だよね。
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