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「…………ん」
纏わりつく気だるさに、霞む思考。
ああ……どうやら俺は眠っていたらしい。
縁側で空を見上げながら昔にと思いを馳せ、人が住む藩邸で無防備な姿を晒すなど俺らしくない。
それ程までに昔の懐かしい思い出に浸っていたのかと自嘲しながら体を起こそうとすれば……。
何やら、頭の下にあるのが板ではないのに気づいた。
庭を映す視界を移動させれば、俺の顔に影が落ちているのに気づき。
見上げれば……。
「キミか」
前後にゆらりゆらりと頭を揺らしている寝顔が、そこにあった。
穏やかな風に茶の髪を揺らしながら、無防備であどけない寝顔をしているのは……。
「松陰先生。俺の傍にいるのは見つけたから」
無遠慮な猫。
松陰先生の言葉を思い出しながら、じわりと広がる胸の暖かさに笑みを漏らしつつ、俺に膝枕をしているそれの背に両腕を回した。
そうして膝枕をされたままの体勢で、顔をそれの腹にと埋める。
独占したい想い。
傍にいてくれる存在。
それらを温もりとして味わいながら、もう一眠りするとしようか……。
完
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