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ザアアアア――……
激しく雨が降っていた。
笠などでは防ぎきれない雨の強さに、男は忌々しそうに舌を打つ。
「ち……」
どうにか今日のうちに帰りたいと思ったのがいけなかった。
大人しく泊まっていれば、こうも雨の濡れることもなかっただろうに。
急ぎ足で道を歩く男の目に、異様な光景が飛び込んできた。
女が一人、笠も被らずに道端に腰をおろしている。
乞食であろうか。
いや、乞食でも、雨を凌げる場所を知っているのではないだろうか。
どちらにせよ、この状況に女は似つかわしくなかった。
早々に立ち去ろうと男は歩く速さをあげる。
だが女が近くなるにつれて、男は眉間に深々とシワを刻んだ。
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