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"その水晶を、下へ…"
宗師に言われ、社の中心に造られた祭壇から水晶を下ろす。亀裂が入り、今にも壊れそうな水晶。それを、紅陽と紅月の手で大切に大切に運び、真っ白な布の上へと移動させた。
亀裂が進む程に、辺りの空気は濃密になってゆく。見守るように水晶に注目していた、その時―――。
ダンッ…!!
もの凄い勢いで襖が開いた。
"藍堂"
「もっと静かに入って来れないのか?」
「うるせぇ紅陽。こんな時に落ち着いてられるか!」
宗師に藍堂(らんどう)と呼ばれた男が、襖を開けた向こうに仁王立ちしていた。
「真継!先行くなんてズルいだろう!」
"…藍堂、その名はもう…"
「目覚めたか!?」
宗師の言葉を無視し、藍堂が押し入る。宗師は呆れたように苦笑して"まだだよ"と答えた。
「他の皆様は…」
「あ?今車で向かってる。直に着くだろうよ」
質問した紅月などそっちのけだ。意識はすでに水晶へと向いている。
「お前も一緒に乗って来れば良かっただろう」
「あんな鈍いモン乗ってられるか。自分で来た方が早ぇだろが」
そっと水晶に向けて伸ばした手は、しかしそのまま引っ込めてしまう。今にも壊れそうな水晶に向ける眼差しは、やはり懐かしさに溢れていた。
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