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「ぼっ、僕は平気だしっ…嗣郎さんも本気じゃなかった……と思う、から…」
「おいコラ、自信持って言えよ」
自業自得の本人が、悪びれずに言う。魄皇がスッと腕を引いた。
「許すのか?」
「……う、うん…。魄皇が…助けてくれたしっ…」
正直、嗣郎さんに押し倒されて危うくそのまま事に及ばれそうになった事よりも、それを見て怒りを隠さない魄皇の姿の方が嬉しくて。嗣郎さんの事がどうでも良かった。
……自分でも、ふてぶてしくなったと思う。
「ありがとう魄皇。紅陽、紅月も。それから…明けましておめでとう」
「あぁ、おめでとう」
僕の半端に伸びた前髪を掬い、魄皇がそっと口付けた。カッと顔が熱くなったけど、その甘やかな空気に酔いしれる。
「うげぇ…」
雰囲気を壊すその声は、嗣郎さんから漏れたものだった。
「甘ぇモンは好きだけどな…度を超すと胸焼け起こすぜ…」
いかにも吐きそう…みたいなジェスチャーで、僕達の横を通り過ぎてゆく。入れ替わる様に料理を運んで来た麒麟が、どこへ行くのか尋ねた。
「……もっかいシャワー浴びてくる。先に食うなよ?」
簡潔に答えて廊下の先に消えた。訳が分からない麒麟だが、僕と魄皇を交互に見比べて、何となく事情は察知したみたいだった。
「麒麟、早くあの男を掴まえろ」
「簡単に言うな。出来るならそうしているさ」
「―――そうか」
二人の会話はさっぱり分からなかった。
「紅月、紅陽。料理を運ぶのを手伝ってくれ」
麒麟に言われ、双子は厨房へと着いて行く。そうして運ばれてきた料理は、麒麟一人で作ったなんて信じられないくらいの量と質で。タイミング良く帰って来た霞さんと熙斗も、思わず歓喜の声を上げていた。
嗣郎さんの忠告虚しく、嗣郎さんがシャワーから戻る前に、僕達はその料理を堪能した。
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