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魄皇の社には玄関らしい玄関が無い。いつもは魄皇が迎えに来てくれるから何も考えてなかったんだけど…。
「……こ、こんばんわっ…」
とりあえず、そう声をかけてみた。すると、正面の扉が勢い良く開いて、中から紅月が飛び出してくる。
「わっ…!」
飛び出した勢いそのままに抱き締められて、危うく後ろに倒れるところだった。
「べ、紅月…?」
「奏哥…奏哥!無事で良かった!貴方に何かあったら……私はっ…私は―――…」
出会った頃にも増して、紅月は情熱的。僕を抱き締める腕が強くて、ホントは少し苦しかったけど、嬉しさの方が勝っていたからそのままにした。
「あ、ありがとう紅月。心配かけて…ごめんね」
甘える子供みたいに紅月が僕から離れない。それを見兼ねて助けてくれたのは紅陽だった。
「紅月、外は寒い。早く入ってもらえ」
苦笑する紅陽の言葉にハッとして、紅月はようやく僕を解放する。正面の階段前でブーツを脱いで、祭壇の間に入る。中では火鉢が焚いてあって、思ったよりずっと暖かい。
「奏哥」
紅陽に名前だけを呼ばれる。紅月ほど口数は多くないけれど、紅陽の目は口ほどに物を言う感じ。優しい眼差しに、心配かけたんだなって心が熱くなる。
「もうみんなに心配かけるような事はしないよ。紅陽、紅月も…僕を助けてくれてありがとう」
「…私達は、何も―――」
言いかけた紅陽の言葉を、首を横に降って無言で遮った。
「二人の存在こそが僕の助けだよ」
僕がそう言うと、二人はそっくりの顔を見合わせて、それから……とても照れ臭そうに微笑んだんだ。
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