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バートは乗用陸鳥に乗って草原を駆けていた。目の前には若葉色の草原がどこまでも広がっていて、心地良い風が頬に当たる。しかし、乗用陸鳥に乗るバートの顔はこわばっていた。
目的地はまだ見えない。
「……ト。バ……トおっ」
風の音に混じって少女の高い声が耳に届いた。バートは驚いて振り返った。もう一匹の乗用陸鳥が、バートの少し後ろを走っていた。乗っている少女の金髪の髪が揺れている。そこから少女は、声を限りにバートの名を叫んでいた。
バートは自分の乗用陸鳥の速度をゆるめた。少女の乗ったヴェクタがすぐそばまで追いついてきた。
「……何しに来たんだよ」
バートは不機嫌に少女に声をかけた。
「あたしも一緒に行こうと思って。サウスポート」
少女はバートをまっすぐに見つめて言った。サウスポートはピアン王国最南の港町で、今まさにバートが向かおうとしている町である。
「お前が?!」バートは驚いて大声を上げた。
「お前、自分の立場とこれから行くところの状態、わかってるのか? ……ってか、いくらなんでもまずいだろ、お前が動いちゃあ」
「どうしてあたしが動くとまずいのよ」
少女が言い返してきた。
「王女って何のためにいるの? こういうときのためでしょ。こういうときに動かないで、何が王女よ」
そう言われてしまうと、バートは何も言い返せない。彼女の言葉は筋が通っているようで、どこかしら強引なような。
「それに、お父様の了解はいただいたわ」
と少女は言う。バートはそれはあやしいなと思ったが、バートはどうしてもサウスポートに行かなくてはならない。するとこの少女も当然、ついてくるだろう。ということは、二人でサウスポートに向かうしかない。
「仕方ないな……」
バートは観念してため息をついた。
「ていうか、良く追いついてこれたよな。お前のヴェクタってそんなに速度出るのか?」
「ええ。ピアン王国最速のヴェクタを拝借してきたの」
「良いな。俺もそっち乗って良いか?」
「良いけど、二人乗りになると速度落ちるわよ?」
「ああそっか。じゃあ、このまま行くか」
「……良かった。最初すごい顔してたけど……意外と元気そうだから」
少女はぽつりとつぶやいた。この少女は自分を心配して、王国最速のヴェクタで追いかけてきてくれたのか――と、バートは思った。
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