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バートを追いかけてきた少女の名はサラという。年齢は十六歳。とても可愛らしい顔立ちをしているが、こう見えて本格的な体術を叩き込まれており、そこいらのピアン一般兵より強かったりする。今は金髪の長い髪を後ろでくくっており、動きやすい武道着を身に着けていた。
サラはピアン王の一人娘で、ピアン王女ということになる。バートは父親がピアン王に仕える将軍だったため、幼い頃から王宮に出入りしており、サラとは幼なじみの仲だった。
しかし、ピアンの将軍であった父は、数年前のある日突然、姿を消した。誰にも、バートにも妻にも行き先を告げずに。
バートはサラの隣で乗用陸鳥を走らせながら、少しだけ迷っていた。バートはひとりで危険地帯――サウスポートに向かうつもりだった。しかし、ピアン王女であるサラが自分を追いかけてきてしまった。バートとサラは幼なじみでタメ語で話せる仲だが、それでもサラはピアンの王女なのだ。このまま二人で危険地帯に向かって良いのだろうか。
しかし、サラの武道着姿は、これから向かう先が危険地帯であることを十分に承知している姿だった。例え得体の知れない敵が現われたとしても、バートと一緒に戦って倒して進んでいく、そういった決意の表れなのだろう。だからバートは、サラに対して何も言えなかった。
「……なあ。サラ」
バートはひとつ気になっていたことをサラに聞いてみることにした。
「なあに? バート」
「……聞いたのか? あの兵士に」
サラはしばらく口を閉ざした後、「ごめんなさい」とつぶやいた。
「なんで謝るんだよ」
バートとサラはしばらくの間、それ以上は言葉を交わさずヴェクタを進めた。
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