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集落に着いた時は既に日は落ち、村長夫人が料理を作って待っていた。
ユリト「わざわざ待たなくても良かったんですが…」
「お客様がいるんですから、先に食べているのは失礼ではないですかぁ。」
村長夫人の料理はなかなかで、特に山の幸の炒めものはうまかった。
そして食後、村長に話があると言って書斎に2人きりにさせて貰った。
「それでどうでしたかぁ?
調査の方はぁ。」
ユリト「はい。
調査中に群れに遭遇しました。
しかしクフィルリュウは知性という物が全く無く、様々な方法で対話、治療を試みましたが、凶暴化した原因は不明のままです。
人命を脅かす物として、駆除せざるを得ないものと判断しました。
推測ですが、知性を失わせる伝染病のようなものにかかっていたのかもしれません。」
リークンの仕業なんて言ったら、あの帝王ならリークン国民を皆殺しにしかねない。
ちなみにこの世界は医療がかなり進んでいない。
病気を治すには、様々な薬、草を混ぜ合わせて被検体に飲ませる。
もちろん薬が毒になっていて死ぬなんて事もある。
顕微鏡や、病原体の培養なんかも無い世の中だから、生きている人間や動物に飲ませる。
「そうでしたかぁ。実に残念ですねぇ…
御死体はどうしましたか?」
ユリト「大地に返しました。」
この事はみんなに伝えて置きますねと村長は淋しそうに言う。
この集落ではクフィルリュウを土地神として祀っていたのだろう。
しかし一度無理やり曲げられた物を戻すのは、不可能と言える。
何故死者がでなかったか…
それはまだクフィルリュウに自我があったからかも知れない。
無理やり戻せなくはないが、その自我さえも歪んでしまうかもしれない。
その場合クフィルリュウは死ぬことを望むだろう。
俺だって他人の傀儡となったら死にたい。
事情を説明した俺は、村長から借りた部屋に入るとすぐシニルを呼んだ。
シニル「何でしょうか?」
ユリト「何かアルデから聞いて無いか?」
俺はあの時のアルデが何かを隠しているように思えて、気になってしょうがない。
シニル「何も…」
シニルは悲しそうに笑う。
恐らくアルデの方から口止めされているんだろう。
ユリト「まっ。その内アルデの方から話してくれるでしょ。」
俺はそう楽観的に考えて、アルデの態度に対する疑念を吹き飛ばす。
そして次に考えた事が俺が此方に来た理由だ。
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