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『ハァ─ハァ─』
夜の森。
まったき月の明かりが森の隅々まで照らしていく。
何かに追われるようにして、雪深い森を駆け抜ける男が一人。
しかし、彼の表情に恐怖という文字はない。
『ははは!これは凄い!これは凄いぞ!』
狂気の歓喜が彼の全てを支配している。
雪を蹴散らし、掻き分けていくように走る。
舞い上がる雪の飛沫が月光に輝く。
彼の息は白く、その肌も透き通るように白かった。
やがて男は走るのを止めた。
『ついに私は見つけた……ふふふ
来い!化け物!
私は逃げも隠れもしない!』
男は振り返り、薄明るい薮を睨みつける。
シュン
一筋の光が薮から伸びたかと思うと、それはあっという間に男の大腿を貫いた。
『ぐおおぉ』
男の悲鳴が森の静寂を掻き消した。
しかし、狂気はそれさえも笑いに変える。
音もなく彼は雪原に倒れた。
流れる血は雪を赤く染めていく。
彼は大腿を押さえていた右手を月にかざした。
その手は鮮血で、やはり赤く染まっていた。
『神よ!私を讃え給え!
私は神に創られし桃源郷を見つけたのだ!』
彼のその手は震えながら天を仰いだ。
その時、彼の黄金色の髪が月光で光ったかと思うと、同じ色の髪を持つ少女が茂みの闇から現れた。
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