Episode;Kanon

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直紀にそう言われ、俺はムキになってそう言い返す。 一方、直紀はといえば何やら得意気な顔をしてにやけていた。 「俺か?俺は野球に決まってるだろ」 「いつ決まったかは知らないが、参考にまで聞こう」 たいした期待なんかしていない。ただ俺は何時ものように馬鹿してくれることを期待して訊ねた。 「だってカッコいいじゃねぇか!ホームラン」  スイングする真似をしつつ、直紀は突拍子のない事を言い出す。 ちなみに直紀に野球の経験はなく、ホームランなんて簡単に打てる筈はない。 しかし、直紀は自信に充ち溢れていた。 それに対して俺は、「予想通りだな」と小さく呟く。 それを雅俊も予想していたのだろう、雅俊は俺に賛同するように頷いた。 「いや、お前にはホームランは無理だろ」 「無理じゃない。打つんだよ!!」 「んな、スポコン漫画の受け売りを吐かれても……」 直紀が志を変えることはない。 それもあってか、直紀の言葉には無駄に説得力があった。 「おっしゃ、何やるか決めてないなら一緒に野球やろうぜ郁斗。昔はよくキャッチボールしただろ?」 「こらこら、偽りの過去を語るな。それに勝算はあるのかよ??」 どのスポーツにしたってそうだ。 楽しむことが大事にしろ、勝てないと分かっていてそのスポーツやる奴は、相当な下手の横好きなのだろう。 意外と負けず嫌いな俺にしてみれば酷すぎる。 「大丈夫だって!!それに俺なら頑張ればいけると思うだろ??」 「あぁ、俺と雅俊が絶対無理だと太鼓判を押してやろう!!」 親指を立てて同意を求めてくる直紀に習うように、俺も親指を立てて元気に応える。 「そんな太鼓判は嬉しくねぇ!!」 「はぁ……なら何て言ってほしいんだよチェリーボーイ」 「何か俺が悪いことになってるし」 やがて直紀は小さな声で、「覚えてろよ」とか言いながら話は収束を迎えた。 俺も何をするか考えておこう。 まぁ、野球になると思うが。 何か楽しそうな気もするし。 話は一難去ってまた一難。 「悪い悪い。すっかり遅くなっちまった」 タイミングを図ったように俺達の下へ駆け寄ってくる一人の男子の姿があった。 その男子は俺達の輪に加わり、それによって俺達は完全の輪になった。 そう、彼が俺達のリーダー、矢臥冬弥だ。
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