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「はぁ、はぁ、はぁ……」
音楽室には戻らず廊下を走り抜け、程なくした所で私は走るのを止めた。どうやら郁斗は追ってこないようだ。
呼吸を整えながら、胸の高鳴りを抑えよう手する。
しかし、高鳴りは私の意志とはいえ対象的に勢いを増していた。
“何で俺達を避けるんだよ”
「―――っ!!」
郁斗が放った言葉に私は胸の苦しみを覚える。
その痛みは、私を見る郁斗の眼孔や表情を思い出すほど深さを増し、それを違う痛み紛らわそうと、私は胸元を痣ができるほどに握り締めた。
郁斗だけには、郁斗だけには知ってほしくない。
この痛みを。
燃え盛る様に熱く狂おしい、辛いこの苦しみを。
そう、傷つくのは私だけでいい。
私があそこにさえいなければ、少なくとも郁斗は傷つかずに済むのだから。
だから今は、この胸に秘めた思いを自らで閉じ込めて。
ひっそりと見守るだけ。
大丈夫、私も郁斗も辛いのは今だけ。
後は時間が解決してくれるはずだから。
「お前はそれでいいのか??」
それは私に対しての問いだった。
その声は振り向かなくたって誰だか分かる。
「……えぇ」
「お前がどう足掻こうと時間は止まらないんだぞ??」
「……分かってるわよ、冬弥」
その言葉に私は一瞬だけ言葉を失いそうになるが、その込み上げるものを抑え込んみ、変わりに私は彼の名前を呼んだ。
「……お前に残された時間は少ない。何分、辛い役目を負わせてしまったとも思っている。しかし、何もここまですることはないだろう」
冬弥は私のことを寂しい目で見る。
それは先ほどの郁斗の目と同じ。
悲しみと絶望に満ちてしまった目。
だから私は答える。
しかし、それは上手く繋がらなかった。
「それでも……」
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