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あぁ、私は今どんな顔をしているのだろうか。
いや、そんなの分かっていた。
何より、よく前が見えない視界がそれを語っていた。
「カノン……お前は本当は郁斗のこと―――」
「それでも―――!!」
今度は繋がらない言葉を叫んでいた。
冬弥の言葉を遮るように。
それを言われてしまったら私の意志が砕けてしまうから。
「それでも、好きでいられるから。郁斗が無事でいてくれるから!!」
込み上げていたものが、形として現れていた。
それは水に濡れた紙の様にくしゃくしゃになった表情で。
込み上げる思いを洗いざらい吐いていた。
「私はどうなってもいいから!!だから、だから!!」
「……あぁ」
「郁斗を救ってあげてよ……」
「……あぁ」
「私はどうなってもいいから。郁斗の日常を守ってあげて。郁斗に辛い思いをさせないであげて……」
最早、冬弥の同意の返事はなかった。
その代わり冬弥は優しく私を抱きしめてくれた。
それは二度続いた同意よりも暖かくて、信頼できるものだった。
学生寮/夜
あれから俺は考えていた。カノンが何故あんなにも苦しそうな顔をしたのかを。
瞳を閉じれば思い出せる。
あの目は、悲しみと絶望に満ち溢れた目だ。
人生の理不尽や慈しむことのできない思いを抱えた目だ。
なら何故、俺がそんな目を向けられたのだろうか。
俺達と仲良くしたくても、することが出来ないからだろうか。
「そんなの……分かるわけねぇよ」
ボヤいたところで結果は変わらない。
カノンの気持ちはカノンにしか分からないのだから。
俺は溜め息を吐きながら寮に戻る。
そこには、お菓子を食べながら漫画を楽しそうに読む直紀が俺の帰りを迎えていた。
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