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それから直紀は、カノンと出会った頃の話をしてくれた。
それは俺が出会った当時と変わらない。言葉一つ一つに棘があって、気高き猫の様な彼女のままだった。
「はぁ……なら変わっちまったのは高校からって訳か」
「まぁ、そういう事だな」
昔のカノンの話を聞けば分かると思っていた。
もし、今のカノンが昔の彼女であれば、それを救った誰かがいるはずだと思ったからだ。
それを救ったとなれば、それは紛れもなく冬弥なわけで、冬弥がカノンを救っていなければ、彼女はメンバーに加わっていなかっただろう。
すっかり手がかりが無くなってしまった。
これじゃあ、カノンをメンバーに連れ戻す方法を自ら失ってしまったのと同じ。
俺達は彼女を救うことは出来ないのだろうか。
とどのつまりに遭った俺は苦し紛れに頭を掻く。
「それにしても、カノンは今も昔も“天の邪鬼”だよな」
「――えっ??」
独り言のように直紀が呟く。
「あいつは相手の言うことを否定しかしない。ある意味で単純な奴だよ」
そうだ。
カノンは嘘を吐いているのではない。
嘘しかつけないのだ。
そのあまりにも損な性格によって。
どうし気づかなかったのだろう。
カノンは俺に対してメッセージを送ってくれていたのだ。
口を開かなくとも、否定だけをカノンはしてくれていたのだ。
あの時だってそうだ。
嘘を吐いていると指摘した時だって、カノンはしっかりと俺の言葉を否定してくれたじゃないか。
「そうだよな。カノンは自分に素直じゃないだけで、別に好んでやってるわけじゃないんだよな」
カノンは何も好んで俺達を避けているわけじゃない。
ただ素直になれなくて、自分を面に出せないだけなのだ。
自分の考えを口に出して確かめる。
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