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俺は馬鹿だ。それも『大』が付くとっておきの奴だ。
彼女が否定しかしないことを、そのメッセージを長い間無駄にしていたなんて、我ながら情けない。
「サンキュ直紀。お前のおかげで何か掴めそうな気がするよ」
「……そっか。なら良かったさ」
直紀が微笑んでみせる。
それは朝方に見せた雅俊の笑顔に似た暖かいものだった。
翌日、俺は行動にでていた。
カノンに会って、少しでもいいから話をしよう。
昨日は逃げられてしまったが、きっと刺激さえ与えなければ逃げることはない。
そう決めて、俺は音のことを探していた。
「といっても、当の本人が見つからないんじゃ話にならないか……」
しかし、彼女を見つけることは未だ出来ていない。
おかしな話だ。
彼女とは中学時代からの付き合いのはずなのに、音楽が好きだったということも知らなければ、彼女が普段何処にいるのかも、俺には検討もつかなかった。
何が命の恩人だ。
俺はその恩人のことを何一つ知らないじゃないか。
何が命の恩人だ。
その恩への御礼を俺は形で現していないじゃないか。
そんな自分が情けなくて仕方がなかった。
「……??」
すると、俺の気のせいだろうか。素早いモノが通り過ぎていった気がした。
それはさながら小動物を連想させるような、俺自身何だったのか分からないほどの早さで廊下の角を曲がっていったのだ。
それを俺は慌てて追いかけてみる。
「……あれっ??」
角を曲がると俺は首を傾げていた。
そこに在るのは空き教室と非常口だけ。階段もなければエレベーターだってない。
だからこそ、そこからは引き返すか、普段は開かないはずのガラス張りでできた非常口を出なければいないはずだった。
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