Episode;Kanon

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しかし、非常口のドアノブに力を入れてもレバーが下がることはない。 でも、俺は誰ともすれ違った覚えはない訳で、無気味めいた現象に俺は背筋が凍る。 やがて俺は踵を返して早々に立ち去ろうとする。 しかし、俺の目線に何かが降り注いできたため、俺は慌てて立ち止まりそれを掴んだ。 「……羽根??」 それは白い羽根だった。 しかし、それが降ってきたからといって、俺が見たのが鳥なはずはなかった。 何せ、鳥が外に羽ばたくための窓すら、その角の先には無かったのだから。 でも、ただ、それは何となく、俺はガラス張りの非常口を通して空を見上げていた。 「んっ……??」 やがて俺はあることに気付く。 「何か聞こえる……」 それは気を張っていなければ、掠れてしまいそうにか細い音。 その音元を辿ればそこは曲がり角を直ぐに在った空き教室だった。 俺は顔を覗かせ教室の中を確かめてみる。 ジャンジャジャジャジャン――。 ジャジャジャンジャジャ――。 「……」 その音色に俺は言葉を無くしていた。 その一つ一つが俺の心を、俺の魂を揺さぶる。直接語りかけてくる。 その音に込められた残響が、反響が、思いが、意志が、俺の胸へと染み渡ってくる。 そう、それがこの音の本質。 彼女の魂の権化だった。 「カノン……」 俺は彼女の名前を口ずさむ。 しかし、その声は自分が想像していたのより小さく、自分が考えていたのより力がなかった。 だから、彼女にも声は届かない。 彼女の手に握られているのは木彫りのアコースティックギター。 想像してもらえば分かると思うが、彼女のバンドの根本はロック。 言うなればアコースティックギターなる物は、過激さには縁遠い音色だ。
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