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その彼女がアコースティックギターを弾いているのだ。
俺は自分の目を疑った。
腹に響く音色は続く。
その揺らがない心と、訴えたい気持ちがある限り。
「あれっ……??」
不思議と涙が出ていた。
それは俺の意思なんかじゃない。
揺さぶられていた心が、その音色に共鳴していたのだ。
涙は拭っても止まることはない。
カノンが俺に気付き振り向く。
しかし、そんな彼女すらも涙を流していた。
「泣いてるの??」
「変だよな、いきなり来ておいて」
「……そうね」
俺が意味もなく泣いているのを見ても、カノンは決して笑わなかった。
それは彼女の優しさなのか、それとも無関心なのか分からない。
でも、彼女が俺に対して微笑んでくれた気がした。
出会った当時の笑顔で。
「なぁ、今の曲……もう一度聴かせてくれないか??」
カノンは無言で頷く。
ギター握り直し、カノンは音色を奏で始める。
心が安らぎ、何処かホッとするその音色を俺はずっと聴いていたいと切実に願った。
しかし、永遠なんてものは存在したりしない。
でも、その音色だけは俺の記憶(なか)で永遠のものとなった。
音色が奏でられている間、俺達は何も話すことはなかった。
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