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「俺さ、気付いたんだ。お前は俺達を拒絶してたんじゃないんだって。俺達が言った事に対して、ちゃんと否定してくれてたんだって。そのメッセージを俺達が気づけなかったんだよな」
「そうかもしれないわね」
「うん。それに俺が言うべきだったんだ。」
郁斗が一旦呼吸を整え続ける。
その言葉を私は予想できていた。
「カノン、本当は何か別な事情を抱えてるんじゃないのか??」
郁斗の目が私を射抜く。
それは希望に満ち溢れた目。
その目は昔も現実も変わらなかった。
「ねぇ、私のお母さんとお父さんのこと知ってるよね??」
「あっ、あぁ。確かロックバンド歌手だよな。俺はあんまり詳しくないにしろ、名前くらいなら知ってるよ」
はぐらかすような話題に、郁斗は首を傾げながらも答える。
「そう、そして私の名前を名付けてくれたのは、そのバンドのボーカルである私の父だった」
「そうなんだ。それは凄いことじゃないか」
郁斗が自分のことの様に喜んでくれる。
その姿に私は震えが止まらず、進む勇気を無くしそうになる。
しかし、これが私の役目だ。
どうしても完遂したい。
震える身体に鞭を打ち、私は茨の道をひた走る。
私にはもう、郁斗の声しか聞こえていない。
「でも、私は自分の名前が嫌いだった」
「えっ―――」
その言葉で、私の時は終わりへの宣告を始めた。
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