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「うっ……」
五月十七日である今日、俺はいつもより朝日を眩しく感じていた。
体が反射的に目を細め、何度か瞬きして目を慣れさせると、やがて俺は上半身を起こし朝を迎えるのであった。
それにしても、五月は憂鬱になる季節とか言われているが、それとは関係なしにか、不思議と意識が覚醒してくれない。
それは別に寝ぼけている訳でもなく、況してやまだ眠い訳でもない。
ただ、長い夢を見ていたかの様な気分で、ここが自分の居場所ではない様な感覚。
そう、楽しいことが終わってしまった時の、胸にぽっかりと穴が開いた感覚にも似ていた。
しかし、俺の感情は対象的に高ぶっていた。
そこに当然と在る日常が新鮮且つ爽快で、意味なんて無いのに俺は楽しみで仕方がない。
これから始まろうとしている『今日』という一日が。
「おっ??やっと起きたか郁斗」
そんな余韻に浸っていると、やがて俺に声がかかる。
その声は俺が寝ていたベッドの下から聞こえているらしく、俺はここが二段ベッドの上段であることを思い出す。
どうりで風景が違うわけだった。
そんなことすら忘れていたなんて、この原因不明の症状はいったい何なのであろう。
認知症にはまだ早すぎるであろう。
そんなことを思いつつも、下にいるであろう彼には、この事を言わないでおこうと心に決め、やがて俺は上段に架かっている梯子に手をかけた。
「おう、直紀も起きてたんだな」
梯子をおりながら、俺は改めて返事をする。
そこには長い青髪の少年が俺を待つように立っていた。
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