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「……ん」
突然、アルフォードはお尻についた小さなポケットから赤チョークを取り出した。
昨日の教室でくすねた時から持っていたそれで掲示板に張られた紙に何かを書き付ける。
そして、長くチョークが放置されたせいですっかり内側が赤くなったポケットに、再びそれを戻した。
(これでよし)
アルフォードは満足げにそれを見る。
幾つもの名前が並ぶなか、目にうつるのは4つの名
アルフォードのよく知る友達
そして一緒に強くなろうと誓った仲間でもある
一人の剣士として始めて、戦場に立ち
たくさんの武功を立て、昇進し
やがては国を担う勇者として
魔王を倒してみせる!
そう心に誓うアルフォードは燃えていた。
自分以外に誰もいない廊下。いくつか設けられた丸い窓からは暖かな朝日が淡くアルフォードを包む。
まだ残り香のような冬の寒さがひんやりと廊下を漂っているが、そのうち本格的に活動を始める太陽がそれらを全て消してくれるだろう。
どこまでも深緑に覆われた町【グリーンフィルド】は朝を迎える――
* * * *
満足げに掲示板をながめていたアルフォードは思ったより長く居たことに気づいた。
「いっけね、もうそろそろ戻らないとなあ さすがにまず―――」
ヒュッ
振り返ろうとしたところでアルフォードの鼻先を何かが通り過ぎた。
板張りの茶色い廊下に転がったのは使い込まれた、拳に収まるほどのボール。
そして、それはパンッと弾けて空気が抜け、バナナの皮のように裂けて沈黙した。
奇妙な静寂があたりにひろがった。
――いつの間にか、遠くで聞こえていた子供たちの声は聞こえなくなっていた。
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