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(まさか……)
何かの間違いであることを願いながらボールが飛んできた方向に視線を向ける。
右手奥の扉から現われたのは茶色の胴衣を纏った一人の初老。
ボールの沢山入った籠を持って仁王立ちしていた。
(でたーそして終わったー……)
真っ白な髪を全て後ろで結び、鋭い鉤鼻に特徴的な尖った目じりが憤怒の表情と相まって鬼と化している。
体の線が細いことから歳の衰えは伺えるが、腕に覚えのある者からすればその実力は一見しただけでわかるだろう。
「アルフォード……貴様ぁそこで何している……今はワシの実戦体技の時間のはずじゃがのぅ……えぇ?」
その腹のそこから恐怖を煽るような低い声。
痺れるような鳥肌が危険信号を送り、今すぐに逃げ出せと叫ぶ。
なるほど、目の前にいる人はヤバイ、だが体が動かん。
「いやぁ……ガリム教官、先ほどの風魔法お見事でした……あんまり速すぎてボールがナイフに見えましたよ……ア、アハハハ…………」
再び掠める小さな影。
今度のボールは古くなった木の床を打ち破って見ることさえできなかった。
たった今通り過ぎたボールの威力に戦慄する。
(ただのゴムボールが床を打ち破るってどんな冗談だよ……)
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