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「ユキさ…、なんだかんだ兄貴の話し出すよね。
兄貴のことまだ好きなの。
告白もしないで俯いてる内に他の女に持ってかれたよ。
別れるのを待って僕と付き合ってるん…」
言い終わる前に、ユキの顔が見えた。
俯く顔が見えなくなった僕は、とうにユキの背を追い越している。
「…うに…ってたの…」
見ていないけれど、
泣いている、と思った。
「そんな風に思ってたの、私のこと。
『カズが好き』って言ったこと疑ってたの?」
顔をあげて、はっきりと言った。
泣いていないことにほっとして、
真剣な表情の恋人に何も言えなかった。
なんて、ばかなんだろう。
「信じてもらえないなら、
私なんていらないじゃない。
必要ないじゃない」
ひどいことを言わせている。
あまりに整然としていたユキに、
この時の僕は言葉を持たなかった。
「帰る」
と短く言った言葉を置いて、ユキは背中を向けた。
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