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「あ、そういえば」
加奈子が朝食の味噌汁をすすり、朝の至福に浸っていると、ミズキが思い出したように言った。
「昨夜、依頼の電話がありましたよ。
私からは、折り返し電話するって伝えておきました」
ミズキがメモ帳を開いて差し出す。
覗くと、男の名前と電話番号が丁寧な字で記されていた。
「へぇ。その人、なんて言ってたの?」
「なんでも女性の霊を祓って欲しいとか」
「ふうん」
加奈子はメモ帳から視線を外して、器に盛られた白いご飯を見つめる。
「仕事、かぁ……」
加奈子は箸をとってそれを口に入れた。
先程までおいしかった朝食が嘘のように味を失っている。
実を言えば、加奈子はあまり仕事に積極的じゃない。
もちろん今回に限らず、毎度の仕事が加奈子には酷く憂鬱なのである。
加奈子の表情を見抜いてか、それとも毎度の恒例からなのか、ミズキが淡々として言った。
「ちゃんと電話してくださいね。
うちの家計だって火の車なんですから」
ミズキはメモ帳を突き出す。
加奈子も負けじと、上目遣いに見つめて甘えてみる。
「ダメ、です!」
いかんせん効果はなく、ミズキはそっぽを向いてしまった。
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