最悪な一日

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あっと思った時には、時すでに遅し… 廊下の角を曲がってきた人とぶつかってしまった。 ドン! 「うわっ!」 「きゃあっ!」 誰かにぶつかったと思ったら、足元がぐらついて、持っていた教材を落としそうになった。 本当に今日はツイテない。 「あぶねっ!」 そう言うと、ぶつかった誰かが私の体と持っていた教材を支えてくれた。 (た…助かった…) 私は、安堵のため息を漏らす。 突然の事に心臓がバクバクしている。 (冷や汗かいた…) 「大丈夫?」 男の人… あっ!ぶつかってしまった人の声だ! 「あ…ご、ごめんなさい!ボーっとしてて…」 顔を上げると、そこにいたのは同じクラスの男の子だった。 「あ、光樹くん!?」 「ったく…。樫宮。ボーっとしてたら危ないだろう?」 多田野 光樹(タダノ コウキ)くん。 彼は同じクラスで、無口でぶっきらぼうだけど、整った顔立ちと時折見せる優しさで女子の間では大人気だ。 「あ、助けてくれて、ありがとう。ごめんなさい」 光樹くんは、少しあきれたようなため息を漏らすと、私が持っている荷物に視線を移した。 「それ、重そうだね」 そう言って、私が持っている教材を指差す。 「え?あ、これ?明日使う教材なんだって。教室まで運んでおくようにって、先生に頼まれちゃって…」 私がそう言い切るより速く、光樹くんは私の手から教材をヒョイと取り上げた。 「え?あ、ちょっと…」 「ちょうど教室まで戻るところだったから、持ってやるよ」 「え、でも…」 今、すれ違うところでぶつかったから、教室とは逆の方向に行こうとしてたんじゃ… 「ほら、行くぞ」 私がまだ話そうとしているのを尻目に、光樹くんはサッサと歩いて行ってしまった。 「あ、ちょっと待って…」 私は慌てて、光樹くんの背中を追っていく。 やっぱり、優しいんだな… 不器用な優しさにちょっと笑いをこらえた。
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