二人の気持ち

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教室を出て、向かったのは裏庭。 裏庭に行ってみようと思ったのは、なんとなくだったんだけど… いた! すごい偶然。 …だけど…女の子と話してる。 私は、思わず大きな木の影に体を隠した。 あの子、隣のクラスの子だ。 少しうつむいて、遠目からでもわかるくらい耳まで真っ赤になっている。 あの雰囲気は…もしかして…。 放課後の裏庭は誰もいなくて、静まり返っている。 今日は風も無くて、二人の声が良く聞こえてきた。 「あの、呼びだしちゃってごめんなさい」 「いや、何か用?」 光樹くんの抑揚のない声が聞こえる。 反対に、女の子の声は上擦っていて、緊張しているのが良く分かった。 「あの…、私、隣のクラスの西野愛海っていいます。あの…ずっと多田野くんのことが、す…好きでした!…わ、私と付き合ってください!!」 "ガバッ"っという音が聞こえそうなほど勢いよく頭を下げる。 「あの、悪いけど俺はあんたのことを良く知らないし、付き合うことは出来ないよ」 相変わらず光樹くんは表情の無い声で淡々と答えた。 「あ、じゃ…じゃあ、お友達からでもいいです。私のことを知ってもらってから返事をもらっても…」 あの子…しつこい…。 告白現場であることを悟ってから、私の心臓は壊れてしまいそうなほど激しく脈打っている。 引きさがらない彼女の姿勢にイライラしているのが分かった。 光樹くんが取られてしまうのが嫌で、「もし、OKしてしまったらどうしよう」と思うと、目の前がクラクラしてくる。 『悪いけど…』 光樹くんの声が聞こえてきた。 「悪いけど、俺…好きな子いるから…」 「あの、彼女ですか…?」 「いや…。違う」 「じゃあ、私のことを知ってからでも…」 「その子以上に、他の子を好きなる事は絶対にないから」 今まで淡々と話していた光樹くんだったのに、最後の言葉には力強さを感じた。 その勢いに押されて、彼女もあきらめがついたようだった。 木の陰からちらりとのぞくと、泣きそうな顔でうつむいている。 「そうですか…」 ぺこりと頭を下げるとその場から走って行ってしまった。 『悪いけど、俺…好きな子いるから…』 『その子以上に、他の子を好きなる事は絶対にないから』 光樹くんの言葉が頭の中を駆け巡る。 そうか、光樹くん…好きな子がいるんだ。 そうだよね。 私なんかを…好きになるわけがないんだ…。
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