愛しい人

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瑠奈はどこに行ったんだろう。 校内を少し探したけれども見当たらなかった。 泣いていた原因が分からないことには慰めようもない。 でも、もしあの告白が原因だとしたら、ちょっと嬉しいかも… そんなことを考えていると、口角が上がる。 あ、まただ、こんなことは今までなかった。 どんどん瑠奈の存在が俺の中で大きくなっていく。 また、見つからなかった瑠奈の事が、心配になった。 俺、そういえば瑠奈の連絡先を知らないな。 でも、探すアテもないし、とりあえず家に帰るか…。 諦めて家路につく。 今日は両親とも旅行に行っていて家にはいない。 ねぇちゃんも友達の家に泊るって言ってたな。 夕飯の材料を買って帰るか… 家に帰る途中でスーパーに寄り道をした。 食材を選びながら店内をウロウロしていると携帯が鳴った。 ディスプレイを見ると、『櫻井 美沙都』の文字が浮かんでいる。 櫻井 美沙都って、瑠奈の友達の… まさか、瑠奈に何かあったのか? 「もしもし…」 『あ、多田野くん?櫻井です。今電話してても大丈夫?』 「ああ、何?」 『瑠奈の事なんだけど…』 やっぱり! 一瞬不安がよぎる。 「何かあったのか!?」 焦りから声が大きくなる。 『大丈夫。今、ウチで寝てる』 ホッと胸をなでおろした。 「そうか…」 『…その様子だと、やっぱり瑠奈のことが好きなんだね』 「え!?なっ…!」 なんでバレたんだ? 顔が赤くなっているのに気づいて、急に恥ずかしくなった。 周りに見られているような気がして、何も買わずにスーパーを出る。 『分かるわよ。瑠奈と話している時しか表情が変わらないもの』 櫻井が電話の向こうでクスクスと笑っているのが聞こえる。 「あのな、そんなことを言うために電話してきたのか?」 『そんな訳無いでしょ。瑠奈がね、すごい泣いてたのよ。原因はあんたでしょ?』 ちょっと責められているような気がするのは、気のせいだろうか? 「やっぱり…」 『でね、あんたの口からちゃんと事情を説明してあげてほしいの、ウチの住所をメールするから、なんとか探し出して今から来て!』 「いまから?」 『そうよ』 「なんで?」 『うるさいわね!早く来なさい!』 耳元でどなられて、電話を切られる。 切る直前に『もう、本当にじれったいんだから二人とも…』と聞こえた気がした。
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