67人が本棚に入れています
本棚に追加
「樫宮がお前の女…?そうなのか?…樫宮?」
すると、その呼びかけに答えるように、うつむいたままの瑠奈が教室に入ってきた。
「る、瑠奈?いつからそこに…っていうか、もしかして俺たちの話、聞いて…?」
「おい、ヤベーんじゃねぇの?」
トオルたちの表情がひきつっているのが分かる。
一緒にいた友達の顔も青ざめていた。
「…らない…。知らないわ。私、あんたなんかの彼女じゃないし!あんた達、最低ね!」
叫んでいる訳では無かったが、声は怒りで震えているように聞こえた。
いつも笑顔のイメージしかない瑠奈には珍しく、今まで見たことのない、怒りを露わにした表情をしている。
その場にいた男の子たちは、驚いて身動きが取れなかった。
トオルも、すっかり血の気が引いて、青い顔をしている。
沈黙が続く中、その静寂を破ったのは、光樹の良く通る声だった。
「…って言ってるけど?」
そう言うと光樹は、相変わらず口角をあげ、その顔に笑みをたたえている。
ざまぁ見ろとでも言いたげだ。
「あ…、る、瑠奈…」
声を発しかけたトオルを、瑠奈はギュッと睨みつければ、その気迫に押されて、トオルは声を呑みこんだ。
その時、瑠奈はその瞳に悲しそうな色を少しだけ見せると、一言だけ告げた。
「サヨナラ」
そういうと、教室を出て走って行ってしまった。
慌てた光樹は、瑠奈と自分のカバンを持つと、瑠奈の後を追っていく。
教室に取り残されたトオルたちは、ただ茫然と二人の後ろ姿を見送っているしか出来なかった。
最初のコメントを投稿しよう!