『プロローグ』

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「この岩、なんて呼ばれてるか知ってる?」  お姉ちゃんは何の変哲もない岩を指差し、僕に質問を投げ掛けてくる。 「え? えっと……」  唐突だった為、すぐには答えられなかった。  それでも、必死に考えを巡らせる。  大きさはだいたい軽自動車一台分。  色は黒に近い灰色。  岩には大人の腕ぐらいある太いしめ縄が巻かれ、その隣には小さな看板がひっそりと立っていた。  うぅ、字が掠れてて読めないよ……  何かのヒントになるかもしれないと思ったが、その期待は一瞬にして崩れ去る。  当然答えられる筈もなく、僕は早々に黙り込んでしまう。  何か適当な事を言えば良かったのだろうが、生憎そこまで頭が回らなかった。 「――知りたい?」  と、意地悪そうに聞いてくるお姉ちゃん。  当然知りたかった僕は、二つ返事で「うん」と答えた。 「この岩はね――」  と、そこで一旦言葉を切り、何かを求めるかのように、チラチラと僕の方を見てくる。 「?」  しかし、お姉ちゃんの意図を汲み取れなかった僕は、ただ困った顔を向けるばかり。 「……もう、そこは私の言った事を復唱するところでしょ?」 「ふく、しょう?」  言葉の意味がまだ分からなかった為、お姉ちゃんが何を言っているのかさっぱりだった。  そんな僕を見て、お姉ちゃんは大きな溜息を吐く。 「もう、聞き返せば良いだけなの。分かった?」 「う、うん」  何となくではあるが理解出来た僕は、不安ながらも首を縦に振った。  僕の仕草を見たお姉ちゃんは、満足げに笑みを浮かべる。  そして何事もなかったかのように、再び同じ事を言うお姉ちゃん。 「……こ、この岩は?」  ワンテンポ遅れてしまったが、お姉ちゃんは口許に笑みを浮かべ、コホンと咳払いした。 「この岩は――」  漸く何と呼ばれてるかが聞ける。  僕は期待に胸膨らませ、お姉ちゃんの次の言葉を待った――
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