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「フカーッ! フ、フカーッ!」
アタシは顔を真っ赤に染め、何度も必死に叫び続けた。
そう叫ぶ姿はまさに“威嚇する猫そのもの”。
更に、二股の尻尾も毛が逆立ち、一回り程太くなっている。
まさに猫。これを猫と言わずして何と言う。
猫以外に……え? つ〇きさん?
……そんな事言っちゃう方は仕舞っちゃおうねぇ。
ふ、ふぇぇ……喉痛いよぉ……
「フ、フカ――けほっ、けほっ」
流石に叫び過ぎたようだった。
先程から喉が痛み出し、叫ぶ事がとても辛い。
アタシは指先で軽くさすり、軽く咳払いする。
だが、咳する事自体、更に喉を痛める行為でしかなかった。
あぅ。こうしてる間にも近付かれて――あれ? “動きが止まってる”?
今更だが、人体模型達の歩が止まっていた。
とは言え、距離は相当詰められている。
後二三歩程でアタシに手が届くだろう。
「よ、良かっ、た」
アタシは痛む喉に鞭打ち、小さく短めにそう呟いた。
後は悠介が行動を起こすのを待つだけ。
……――
――可笑しい。悠介が何もしようとしない。
せっかくアタシが時間を稼いだと言うのに。
……まぁ、叫んでいただけだけど。
「ゆ、悠、介?」
無理をしつつも、アタシは悠介を呼び、クルッと振り返る。
で、その間にのど飴を口に放り込む。
持ってて良かった柑橘系ののど飴。因みにレモン味。
「――ん。よし。準備は万全だ」
……トマトジュース一気飲みしてただけなのに?
悠介は一気に飲み干したトマトジュースのパックを握りつぶし、自信満々に笑みを浮かべる。
一体全体どう言う事なの……?
トマトジュースを一気飲みする事と、この状況を打破する事に何の関係があるのだろう。
アタシにはさっぱり理解出来なかった。
「さて。葵、俺の手を離すなよ? ……いや、寧ろもっと密着した方が良いな」
悠介はそう言い、グイッとアタシの腕を引く。
「あ、あぅ」
アタシは抵抗する暇もなく、悠介に密着する羽目に。
……まぁぶっちゃけ嫌ではないし、寧ろ幸福だった。
市民、幸福は義務です。アナタは幸福ですか?
と言う問いに、アタシは二つ返事で「幸福です」と答えたい。
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