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 私は、その隙間からいったい何が見えるのだろうか、とだんだん気になり始めていた。一度のぞいてみたい。その思いは日増しに強くなっていった。  禿げたオヤジが携帯電話で話しながらのぞいていたときは、思い切って訊ねてみようかと思ったぐらいだった。  珍しい動物でもいるのだろうか。何か奇妙な物を作っているのだろうか。テレビで紹介された何かがあるのだろうか……。  しかし、隙間には必ず先客がいて、私は見られなかった。朝はどうしても急ぐので、あくまで待つわけにもいかず、かといって、声をかけて場所をゆずってもらうのも気が引けた。  そんなわけで、毎度あきらめて、指をくわえていた。帰りは夜になるし、休日わざわざ出かけていって見るほどのことか、と心のどこかで「どうせつまらないものだろう」という思いもあった。  いつか見られるときが来るだろう。  そう思いつつ何日もすぎたある朝だった。その場所に来ると、なんということか、誰もいない。  チャンスだ。心の中でファンファーレが鳴り響いた。
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