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 通勤の行き帰りの途中に、学校を思わせるような長いブロック塀があった。  その向こうは個人の住宅なのだが、御殿と呼べるような立派な住まいだった。きっと、主人はどこかの一流会社の社長か会長なのだろう。自分にはまったく関係のない世界の人だ。  高い塀ごしに豪邸の屋根がちらりと見えるだけで、内部がどうなっているのかまったく知れない。まっすぐな、百メートルほどの塀は、日常の風景の一つにすぎず、それ以上のものではなかった。  ある朝、いつものように通勤のため、駅へと急いでいた。例の塀の連なる道へさしかかったとき、私は通学途中の小学生が数人、その塀のそばにタムロしているのを見た。塀に穴でもあいているのか、中をのぞきこんでいるようだった。ランドセルを車道側に向け、クスクス笑いながら。  私はさして気にもせず、その場を通り過ぎた。しかしそれが始まりだった。
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