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 私はなるべく平静を装いながら歩き、その割れ目へと近づいていった。  そして、まさに通り過ぎようとしたそのとき、すっと割れ目へと近寄ると、中をのぞきこんだ。  が、そのときだった。 「こら! 誰だ、人の家をのぞくのは!」  大声がした。  びっくりして顔を上げると、鬼のような顔をした老人が駆けよってくるではないか。  私は反射的に逃げ出した。 「待て! この野郎!」  申し開きなどできるわけがなかった。後も見ずに、一直線に駅へ向かう道を全力で走っていった。塀の隙間からは何も見ることができなかった。  次の日、その塀の隙間は修繕されてふさがれていた。  いったい、あの隙間から何が見えたのだろうか……。 〈終〉
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