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「やっぱりここに居たんだね。」
背後から懐かしい声して琳琳王女が振り返ると、そこには丘を登って来る景王子の姿があった。
「景王子!今夜はお友達と一緒じゃないの?」
「そのつもりだったけどやめたよ。花嫁は向こうの風習で今夜は身を清めて静かに過ごすと聞いて、何だか申し訳なくなってね。」
「そう、景王子は昔から優しかったものね。結婚おめでとう。お幸せに。式の前にこれだけは言っておきたかったの。」
「琳琳も、太武帝に嫁ぐそうだね。おめでとうございます、皇后陛下。」
「ありがとう。でも私はずっと、景王子と結婚すると思っていたわ。」
琳琳王女は、思い切って胸にしまっていた想いを口にしてみた。
暫くの沈黙の後、口を開いたのは景王子の方だった。
「実は僕もそう思っていたんだよ。大允国から縁談が来るまではね。実現はしなかったけれど、同じ気持ちだったなんて嬉しいよ。」
「よかった。思い切って言ってしまったけれど、私の勘違いだったらどうしようかと思った。」
「それにしても、僕達はよほど強い縁で結ばれているみたいだね。夫婦ではなく義姉弟になるんだから。」
「え?私が義姉?あ、そっか!そうよね。皇女が義妹なら景王子は義弟になるのね。私の方が年下なのに変な感じ…」
「あはは…しっかりして下さいよ、お義姉様。」
「もう!からかわないで。それより皇女はどんな方なの?」
「ああ、すごく素敵な女性だよ。皇女なのに謙虚で優しいんだ。早く琳琳に紹介したいよ。」
「私も義妹になる人と仲良くなりたいわ。いろいろと聞いておきたい事もあるし…」
「それは太武帝の事でしょ?わかった、明日の晩餐会の前に会わせるよ。」
「明日は忙しいのに大丈夫なの?」
「それくらいどうってことないよ。それより、もうすっかり暗くなったから戻らないと。琳琳も長旅で疲れてるでしょ。明日は結婚式、明後日は立太子式と式典が続くから、今夜はゆっくり休んで。」
「うん、ありがとう。」
二人は丘を下り王宮へ戻ると、琳琳王女は客殿へ、景王子は自室へと向かった。
その夜、琳琳王女はなかなか眠りにつけなかった。景王子と相思相愛だったこと、しかし決して結ばれることはないことを考えると、何とも言えない複雑な感情に襲われた。
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