第三章 幻の結婚式

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琳琳王女には、出発までに会っておきたい人がいた。それは、大神女の蒼安だった。 陽都の王宮の神殿には、大神官と大神女を筆頭に多くの神官や神女が仕えている。神官や神女は誰でもなれるが、大神官と大神女だけは、祭礼を司る華陽氏の中から選ばれる。従って、蒼安も華陽氏である。 琳琳王女は、神殿の一番奥の大神女の部屋へと向かった。 「蒼安様、琳琳が参りました。」 すると、部屋の奥から小さく「お通しして」という声がして扉が開いた。 「いらっしゃいませ、王女様。そろそろおいでになる頃かと準備しておきました。」 見ると、机の上には祭壇の道具が整然と並べられていた。大允国では神を奉らないので皇宮に神殿はない。しかし、貴陽人は朝夕の神への祈りを欠かす事ができない。そこで、部屋の中に祭壇を作り、そこを祈りの場所とするために、祭壇の道具を揃えて欲しい、と琳琳王女が頼んでおいたのだった。 「蒼安様、ありがとうございます。これで大京の皇宮でもお祈りができますね。安心しました。」 「王女様、今日はもう一つお話ししておきたいことがございます。王女様は『陽姫策』についてはご存知ですか?」 「はい、国史の講義で習いました。その昔、尊王が他国と同盟を結ぶために、王女を他国へ嫁がせた、と。以来、貴陽の王女は、尊王の政策の実現のため、他国へ嫁ぐのが決まりとなったのです。」 「ええ。政治的にはその通りです。ですが、『陽姫策』にはもう一つの意味があります。それは、この祭壇とも関係があります。」
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