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「王女様、王妃様がお呼びです。」
恭しくお辞儀して入って来た宮女が琳琳王女に伝える。
琳琳王女は母親である孫王妃の部屋に向かいながら、太武帝の事を思い出していた。
それは十二年前、太武帝がまだ皇太子だった頃の事だ。大允国皇帝の特使として貴陽国へ派遣されたのが皇太子だったのだ。まだ幼かった琳琳王女も、大殿で見た皇太子の冷たく光る鋭い目付きだけははっきりと覚えている。あの人の妻になるのかと思うとぞっとした。
「琳琳、わかっているとは思いますが、お前は重大な任務を引き受けたのですよ。お前ももう十八歳、立派に務められると母は信じています。」
「母上、でも正直言うと私はあの方が怖いのです。」
「お前は皇后になるのですよ。怖がる必要はありません。皇帝陛下の寵愛を受けることだけに専念しなさい。それがこの国の希望なのです。」
「もし陛下が私に興味をお示しにならなかったら?」
「その時は陛下と皇太后様にしっかり仕えるのです。そうすれば、この国は守れずとも自分の身だけは守れます。」
「この国を守れないなんて…そんなの嫌です。」
「それなら出来るだけ早く子供を産むことです。それも皇子を。私も丁国から嫁い
で来て、辛い事も沢山ありました。でも、恭王子を産んでからは、それまで上手くいかなかった事が不思議と上手くいくようになったのです。」
王妃は隣国である丁国の先代の国王の娘で、彼女もまた異国へ嫁いで来た王女だったのである。
「母上も、兄上を産む前にそのようなご苦労をなさっていたとは…少しも知りませんでした。」
王妃は今にも泣き出しそうな琳琳王女の肩をそっと抱き寄せると、暫くそのまま王女の背中をさすっていた。
「さあ、明日からは忙しくなるわよ。まずは花嫁衣装を仕立てないとね。自分の時は余裕がなくてあっという間に結婚式だったけれど、娘の結婚式って自分の時より何だかわくわくするわね。」
孫王妃があまりにも楽しそうに言うので、思わず琳琳王女もくすっと笑ってしまうのだった。
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