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スーツ姿の青年は、待ち続けていた。
どんよりとした曇り空の下。小さな一軒家のドアと対面したまま、十数分もノックの返事を。
家は、外界の光全てを遮断するようにカーテンが閉められ、場所も村から逃げるように少し外れた場所に建っていて、まるで中の人間が外を嫌っているかのように見える。
この家は、周りからは「幽霊屋敷」と言われて恐れられていた。
村人の話によると、深夜にこの家から人が出て来ることがあるらしい。その姿は幽霊のようだと言う。
そしてそれが帰って来る時は決まって、手に血にまみれた動物の生爪が握られているらしい。そのため、中の幽霊は「爪剥ぎ」というおどろおどろしい名前を付けられていた。
「……さて、もうずいぶん経った……」
青年は懐中時計を取り出した。そして、村の方向に睨みを利かせる。
そこには、好奇心旺盛な村人がたむろしていた。
その目は、青年の手元に向けられている。
青年が持っていたのは、斧。
強行突破を試みるのである。
「さて……幽霊さん、失礼するよ」
青年は斧を振りかぶった。
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