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青年は扱い慣れぬ斧に力を込め、足を踏ん張り、ドアに一撃を叩き込もうとする。
だがその力を解放する直前。ドアがごく僅かに開き、そこからじっとりとした視線が注がれているのを感じ、慌てて斧を下ろした。
「……」
不気味さすら感じる目だった。
何も感情を映していない、無機質さ。非難を感じる半開きという状態。
それも薄暗い中でそれだけが見えるものだから、なお不気味に感じた。
「……あんた誰?」
その目の持ち主は、意外にもはきはきと、しかし抑揚の無い声で問う。
青年は気を取り直し、斧を放り投げ、
「お初にお目にかかります。……私は」
「何でもいいから。何しに来たの」
その声からは、静かな、それでいて何より強い拒絶の意思が感じ取れた。
青年は皮肉な笑みを浮かべる。
そらの曇り空から、ぽつりぽつりと冷たい雨が降り始める――
「……いえ。大したことではありませんよ……。ただ、貴女の力を貸して欲しいと思いまして」
ドアの隙間から、何かが飛んで来て青年の顔に命中した。
それに怯んだ一瞬の隙に、ドアは固く閉ざされ、鍵が閉められる。
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