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「じゃあ……ソウさんは……私のために自分の知識を……?」
「……そうだよ。もう覚えることが出来ない」
「……」
ロウは罪悪感に頭を抑えつけられたようにうつむいた。ソウはその顔を覗き込み、心配しないで、と声をかける。
ラルフとロータスは顔を見合わせ、何も言わずに引き下がる。馬車の中からは、もう音は聞こえなかった。
「だけど、大丈夫。私の……記憶力はすごいから。それに、この大陸には本はいっぱいあるし。……何より……」
ソウは対面の少女の頭を掴み、ねじ切るような勢いで後ろを向かせた。
その方向――街の方向から、一人の男性が駆け寄って来る。ヒゲを生やした大柄な男だ。
「お父さん……」
「早く行ってあげて。……どうせ数日は図書館で知識を溜めるから、ここにいるから」
そう言って、ロウから遠ざかる。
後ろから、自分の名前を呼ぶ父親の声。
ロウは足を止めて迷うも、馬車に向けてぺこりと頭を下げ、父の元に走って行く。
そして、何度も振り返りながらも――親子二人は、並んで自分達の街へと帰って行った。
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