1章

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彼らが去った頃。 ベレンの墓地。一昨日に埋葬を終えた、作りたての白い墓の前に、ブラゾとロウはいた。 「……エギは数を減らして、奴ももうじき死ぬらしい。……もう大丈夫だ、サリナ」 ブラゾは墓石に書かれた名前を読み上げた。 「これからはお前のような犠牲者を減らせるからな」 快晴に照らされた墓の表面は、心無しかいつもより輝いて見える。ロウはふと跪き、土に触れる。 「ねぇ、お父さん。土の中って冷たいんだよね?」 「ああ」 ロウはくすくすと笑い声を上げた。 「……意外と、ソウさんは良く考えて渡してくれたのかも知れない」 そう言って、笑いながら墓の前に置いたのは――光を受けて、赤く照り返して来る一本の唐辛子。 「なるほど、体が温まる。……親切な娘だ」 「じゃ……そろそろ行こうか。スーラさんにも言葉遣いをちゃんと教わったし」 二人は墓に別れを告げ、自分達の店へと並んで帰って行く。その後ろにたたずむ石は、風に吹かれた唐辛子を、物言わず受け止めた。 馬車の中。 凄まじい速さで駆ける馬。しかしそれにも関わらず、馬車の中の振動は極めて小さかった。
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