2章

2/100
64人が本棚に入れています
本棚に追加
/360ページ
札束が、机の上に溜まった埃を舞い上げた。 その札束に喚起したのは、目の前に座る男連中の八割以上。イスに座ることすらはばかられる不潔な薄暗い部屋の中、彼らと対峙している男女のうち、女性の方が静かな微笑を浮かべる。 「お気に召したかしら?」 「もちろんだ」 喚起した八割のうちの一人が札束を拾い上げ、卑しく舌なめずりをしながらその枚数を数え始める。その間、女性は鋭い目で彼らを見回す。 喚起した八割は、少なくとも期待は出来ない。彼らは、雑用か力仕事担当なのだろう。しかし残りの二割の表情は、彼らとは雲泥の差。札束が「契約書」程度にしか見えていない、プロフェッショナル連中。彼らこそが、この組織の肝なのだろう。 彼らを「彼女」が相手にすれば、あるいは――。期待に歪んだ口元を隠すように、女性は紅茶が注がれたカップを口にする。 「しかし、あんたらも奇妙な奴らだな……。なんだって、俺達に依頼をしたんだ? この稼業を長くやってるが、依頼なんか受けたことねえ」 札束を数え終えた男が、見るに堪えない卑しい笑いを顔に残したままで言う。
/360ページ

最初のコメントを投稿しよう!