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見張りをつけないとは妙だとは思っていたが。きっと、地上まで見張りが付くだろう。いや、下手をすればそれ以降にも。
「……早くしなさい。私、脚が痛いんだから」
言いつつ、女性は顔に指を這わせる。そこには、男と同様の不自然なまでに美しい傷がついていた。額から目を通り、顎まで引き裂くような傷が――
――我が傷よ。貴様の望みを我は知る。
次の瞬間、見張りを任されていた男は、奇妙なものを「見た」。
歩いている。のっそりとした動きで、二人は階段を上っていた。これならば、余裕で尾行出来る。しかし――この足音は何だ?
まるで急速に階段を駆け上がるような音がするが……気のせいだろう。
そのまま男は、ゆっくり階段を上る二人の姿を注意深く見守る。
それから「少し」経った頃、男の背中に乗る女性はこう思っていた。
外の空気は、なんと美味しいんだろう、と。
私の「能力」はなんと便利なのだろう、と。
そして何より――果たして「あの子」はどんな能力を秘めているのだろう、と。
ラルフ達がこの国に帰還する前日の出来事だった。
不落国家ルーテ。この国は、そう呼ばれていた。
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