1章

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早朝のベレン図書館は静かだった。 創立二十周年を迎えるこの図書館。建物は小さいが、使い古された背の高い本棚が整然と立ち並び、見る者を厳粛な気持ちにさせるだけの力がある。 この図書館の蔵書を管理する、創立時から勤めて来た、中年の女性司書。 二十年間無遅刻無欠勤という記録を今なお更新中の司書だ。 彼女は今、とある本棚の整理のためにかけたハシゴの最上段にて、トレードマークの赤ぶちメガネがずれているのも直さず、固まっていた。 この図書館創立以来初の珍事を前にして。 「な……何で……?」 本棚の上に、蔵書を枕代わりにして、少女が眠っていた。 体は狭い本棚で寝られるのが納得の細さで、その体はいくつもポケットを縫いつけられた漆黒のワンピースに包まれている。 肌は造り物のような白さで、顔立ちの端正さや鋼のような鈍い灰色の長い髪も相まって、人形のような印象を見る者に与える。 装飾の類は腰元に結ばれた黒いリボンしか無く、持ち物も白と灰色の二色の豚顔のポーチのみ。 そして頬には、その風貌と不釣り合いな絆創膏が貼られていた。
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