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部室はいつもどおり薄暗く、雰囲気を出すための蝋燭がよく映える。先輩が蝋燭に火をつけて、年季の入った椅子へ、その腰を下ろした。
僕もすわるが、普段ならなんともない先輩との対面席がいやに恥ずかしく思えた。
「さて、今日も話してもらうよ?」
そういう先輩の声色に気遣いが見えて、余計にやるせない気持ちに僕はなっていったが話をしていけばこの気持ちも消え去ってくれると信じた。
「えぇ、あれはつい最近3日前くらいの出来事だと記憶してます」
すぅっと先輩の目つきが変わる。僕の話を聞いて思考するためだ。それが半年間の僕と先輩の関係。僕が「話」という餌を先輩という化け物に「思考(たべ)」させる。飼育員と動物の関係。
「近所のスーパーに買い物に行こうと思って、歩いてたんです。そしたら正面に不思議な男の人がいましてね?」
「…………」
僕がどう話をしていても先輩は僕をじぃっと見据えたままで、問いかけを入れても口を開くことはない。僕の話がすべての工程を終了したとき、美の彫刻であるかのようなまでに不動を貫いていた先輩が、瞬き3回、動き出すのである。いつも決まって「ふぅ、うむ、いい話であったね。それでは…」と始まる。僕も「はい、それで?」と聞く、それが儀式ともいえるこの付き合い終了の合図。
「それでそのときに見た男の人が今度はカラスに話しかけてましてね?お世辞にも、まともな人とは言えないなとおもって通り過ぎようとしたら」
「…………」
話しながら、先輩の顔をよく見たら深く眼を閉じて寝ているようにも見えた。というか寝ていると思う。でも僕は話すのを止めない。一度話し始めると、よほどのことがあったとしても、話が終了を迎えるまで止めることはしない。それも儀式の決まりだ。
「それで今度は道路に飛び出してきて……もちろん車がびゅんびゅん通っているときにですよ?まぁ結果として轢かれたわけなんですが、派手に飛んで腹が裂けちゃってたんです。いやぁグロかったです。でさらにその男」
「……」
それから少しして僕は話を終えた。
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