0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「……」
先輩は寝ていた。かすかに聞こえる寝息すらかわいらしく感じる。視線は昼から引きずってきたこの気持ちの原因、先輩の制服からかすかに見える谷間へそそがれていた。透き通るように白く、それでいて妙に神聖さや色気の類がなく、なんというか……美しかった。
僕は先輩のことが好きなのだろうか?先輩は僕のことをどう思っているんだろう。昼から先輩の様子もいつもと違った。半年間……短く濃いこの楽しくていとおしい時を、僕の一瞬の気の迷いで、未熟な心で壊してはいけない。
「えっちだな」
「いぃ!」
いつの間にか起きていた。
というより、普段そこまでしない思考に没頭していたらしい。先輩のそのふくよかな……谷間を凝視した状態で。
「うお!あぁっとその、すいません……」
「いや、こちらこそいつの間にか寝入っていたらしいね。つい君の声が心地よくて、久々に幸せな気分に浸れたよ」
「ほんとにどうしたんですか?今日の昼といい今といい、調子が悪いなら無理せずに休んでくださいよ?」
「君が好きで仕方なくてね、どうも辛抱できなくなっちゃってさ。私自身もどうしていいかわからないんだ。君は私をどう思ってくれているんだ?遠慮せずにいってくれ後輩君」
正直、びっくりした、そして同時に少し失望した。僕は先輩に恋い焦がれながらも、心のどこかで崇拝のようなどこか尊敬を超えた感情を持っていたのである。
嘘だとしてもうれしいしかなしい。
真だとしてもうれしいしかなしい。
僕ごときに恋してしまったのかという絶望。
僕の気持ちがいいように遊ばれている絶望。
僕はこの先輩の問いには答えられない。
今の僕には答えがない。
それでも……
「僕も先輩のこと……好きですよ」
顔が凍りついていた。
それを読み取ったのであろう先輩は、なんとも言えない表情をしていた。
それも一瞬。瞬きの先にはいつもの先輩がいた。
「そうか、両想いか」
「そうですね」
「では……早速正式に告白をしてちゅうとかデートとかエッチなことをしよう」
「さっきのは告白じゃないんですね」
「状況報告というやつだ」
薄暗い部屋に僕と先輩は二人きり。
「なぁ」
「はい?」
「いま、もうちゅうしない
か?辛抱たまらん」
「いいですよ、僕の名前、言えたらですけど」
「ふふふ、君のそういうところ、大好き」
「だって君、一度も私に名乗ったことないじゃないか」
了
最初のコメントを投稿しよう!