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(T)
家を出て、中学生時代から愛用している自転車にまたがる。
同時進行で菓子パンの袋を開けるのも忘れずに。
「よし!!」
勢い良く菓子パンを頬張り、高校へと自転車を漕ぎ始める。
ペダルに力を込めると、卒業後に使っていなかったせいか軋んだ音がした。
一瞬ヤバい、と思ったがその心配もどうやら無駄だったようだ。
中学生時代と何ら変わり無い、いつもの乗り心地。
遅刻の危険を忘れさせてくれるような爽やかな風を切り、地元の商店街を抜け、ひたすら高校へ向けて疾走する。
「何とか間に合うかな……」
どうやら飛ばした甲斐あって、時間にはある程度の余裕があるようだ。
校門までは約100m。
そこの交差点を過ぎれば、あと少し――
「――うわ、危ない!!」
「!!」
ガシャンという自転車が倒れる音。
数人の生徒がこちらを振り返る。
……厄日なんじゃないのか。
交差点から出てきた女の子を跳ねてしまったようだ。
「あの、大丈夫――」
声をかけた刹那、ごめんなさい、と声を返された。
今にも消え入りそうな儚い声。
勿論僕の心は罪悪感に溢れている。
轢いてしまったのはまだ真新しい制服に靴、そして鞄。
どうやら同じ一年生らしい。
その子が口を開く。
「本当にごめんなさい!!私は大丈夫。私がちゃんと前を見てなかったから。君は……よかった、大丈夫みたい。ごめん、私急ぐからまたね!!」
それだけ言い残して、その子は学校へと走り、校門へ入っていった。
謝ってばっかりだったな、あの子。
――僕も行かなきゃ。
自転車を再びこぎだし、今度は事故を起こす事なく、校門をくぐった。
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