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鮮やかな茜色に染まる空
キラキラと黄金色に輝く海
そんな中ゆっくりと、沈みゆく太陽……
小高い丘の上には、ひっそりと佇むお寺があった。
夕刻の静寂に包まれる境内に、腰を掛けている人影が二つ確認できる。
不格好な握り飯を無言で頬張る青年と、それを穏やかな表情で見つめている老人。
青年の側には、虎の刺繍入りのボストンバックが無造作に置いてある。
一段落着いたのか、お茶を飲む青年。
「やっぱり、源じぃの握り飯は最高だね」
その声は、何処か寂しさを帯びている。
そんな雰囲気を察してか、源じぃと呼ばれた老人は豪快に笑いながら、返事をする。
「当たり前じゃ。ワシの愛情が籠っておる握り飯が、美味しくない訳がないじゃろうが。なぁ、束……」
どうやら青年の名は束(タバネ)というらしい。
束の表情が、源じぃの声に呼応するように、少し明るさを取り戻す。
「初めてここに着た時も、源じぃ同じような事いってなかったけ?」
「そんな事もあったわな。あの頃の束は、まだ小学校四年生だったかのぉ……
もうあれから、六年近くにもなるなんて、時が経つのは早いものじゃ。まるで、昨日の事のように思い出されるわ」
目を閉じて、物思いに浸る源じぃ……
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