旅立ちと別れのセレナーデ

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―― どれ位の時間、話をしただろうか。辺りは既に、夕闇に包まれていた。 腕時計を覗くと、出発の時間まで一時間を切っていた。 「源じぃ、俺そろそろ行くね! 虎雄さん待たせると後が怖いからさ」 虎雄とは、束のバイト先のお世話になっている社長である。 魚河岸の二代目で、趣味で『海の家』という居酒屋も経営している。 若い頃は、自身も相当ヤンチャだったらしいが、束の事情を理解して、年齢や労働時間等、目をつぶっていて力になってくれる、そんな人情味ある人格者である。 「魚屋の坊主かぁ、よろしく言っといてくれ。 それと束よ、これはわしからの餞別じゃ、持っていきなさい。 なぁ~に、ちょっとしたお守りじゃよ。勿論、わしの愛情もたっぷり詰まっておる」 源じぃから渡されたお守りは、緑色に濁った水晶に銀の装飾が施されている首飾りだった。 「源じぃの愛情たっぷりとか、効き目がなんか凄そうだな。それにしても、神秘的な綺麗な石だね」 鈍い輝きに多少気圧されながらも、不思議と見つめてしまう。 そんな魅力が石にはあった。
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