5人が本棚に入れています
本棚に追加
「変幻魔術で外見と服装を変えたのですよ。この世界ではこちらの方が怪しまれないので」
「あ、なるほど…確かにこっちの方が街に溶け込み易いよね」
あの黒装束で出歩くものなら何かの宗教と間違えられるか、お巡りさんに引き留められるかのどちらかしかない。
少なくとも、街の人々から好奇な眼差しを送られるだろう。
「それにしても…ちゃんとした格好すれば、本当に好青年だよね。見た目は」
「それはどういう意味でしょうか?」
「自分の胸に手を当ててよーく考えてみなさい」
例え外見が好青年でも、中身が鬼畜ドSだったら好青年とは言わないのだよ。
黙ってれば、ちゃんとしていればそれなりに格好いいのに。
ひかりがそんなことを思っていると、ダスクは軽く両手を合わせながら街へ足を向けた。
「まあ立ち話も何でしょうし、街に入りましょうか」
「あれ、ダスクもこの世界に用事があるの?」
「ええ。貴方に変な虫が付かないよう、監視しなければなりませんからね」
「…は?」
…今、なんといった?
思わず耳を疑うような単語がダスクから出てきたような気がするのは、気のせいだろうか。
ちなみに当の本人は相変わらずニコニコと微笑みを浮かべている。
ひかりは、ひきつった笑みで彼を見据えた。
「まさか、お師匠が言ってた護衛って…」
「流石はひかり。察しが良いですね。この僕ですよ」
ひかりの言葉に、ダスクはにこりと笑みを深めた。
(……マジかよ!!)
いや別に嫌なわけではない。
むしろ大規模な万屋のブレーンが直々に護衛をしてくれるとなれば非常に心強い。
特にダスクはひかりの苦手な遠距離戦闘を余裕でカバーしてくれる程の実力者だ。例えるなら、大抵の組織であれば魔術数発で壊滅出来るぐらい。ちなみに実話である。
だが、
「年頃の男女が二人で仲良く街を出歩いたら、なんか色々と勘違いされそうな気が…」
「一体何を勘違いされそうなんですか?」
「それ知ってて聞いてるだろ」
「はて、何の事やら。とにかく行きますよ。日が暮れてしまいます」
そう言うとダスクはひかりの背中に自分の右手を添え、街に向かって歩き出した。俗に言う紳士のエスコート。
妙に心が落ち着かないところはあるが、致仕方ない。
根負けしたように肩をすくめたひかりは、ダスクと一緒に街へ入った。
最初のコメントを投稿しよう!